旅人

旅人
三好達治

雪どけの峽の小徑を 行く行く照らしいだす わが手の燈火
黄色なる火影のうちを 疲れて歩む あはれ わが脚の影
重い靴 濡れた帽子 冷めたい耳 空腹 ――旅人と
身をなして 思ふことさへ うつつない ああ このひととき



青空文庫より引用