秋日口占


われながく憂ひに栖みて
はやく身は老いんとすらん

ふたつなきいのちをかくて
愚かにもうしなひつるよ

秋の日の高きにたちて
こしかたをおもへばかなし

すぎし日の憂ひならねば
あまからぬこの歎きかな

見よ彼方
日は眞晝

藍ふかき海のはるかに
眞白なる鴎どりはも

一羽ゐてなに思ふらん
波の穗にうかびただよふ

願はくばわが老いらくの
日もかかれ 世の外にして

つたなかる心ひとつを
いだきつつわが來し旅の

ゆくすゑをいゆきたどらん
よしやえし西も東も

今はとてかへるすべなき
これはこれ旅にしあれば

相模野の野のすゑつかた
おしなべてものはおとろへ

われひとりかくつぶやくに
風高し端山はやま艸山くさやま



青空文庫より引用