いちじくの葉 夏の午前よ、いちじくの葉よ、葉は、乾いてゐる、ねむげな色をして風が吹くと揺れてゐる、よわい枝をもつてゐる……僕は睡ねむらうか……電線は空を走るその電線からのやうに遠く蝉は鳴いてゐる葉は乾いてゐる、風が吹いてくると揺れてゐる葉は葉で揺れ、枝としても揺れてゐる僕は睡らうか……空はしづかに音く、陽は雲の中に這入はひつてゐる、電線は打つづいてゐる蝉の声は遠くでしてゐる懐しきものみな去ると。(一九三三・一〇・八)青空文庫より引用