詩人は辛い


私はもう歌なぞ歌はない
誰が歌なぞ歌ふものか

みんな歌なぞ聴いてはゐない
聴いてるやうなふりだけはする

みんなたゞ冷たい心を持つてゐて
歌なぞどうだつてかまはないのだ

それなのに聴いてるやうなふりはする
そして盛んに拍手を送る

拍手を送るからもう一つ歌はうとすると
もう沢山といつた顔

私はもう歌なぞ歌はない
こんな御都合な世の中に歌なぞ歌はない
 (一九三五・九・一九)



青空文庫より引用