酒場にて(定稿)


今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、
実は、元気ではないのです。

近代いまといふ今は尠くも、
あんな具合な元気さで
ゐられる時代ときではないのです。

諸君は僕を、「ほがらか」でないといふ。
しかし、そんな定規みたいな「ほがらか」なんぞはおやめなさい。

ほがらかとは、恐らくは、
悲しい時には悲しいだけ
悲しんでられることでせう?

されば今晩かなしげに、かうして沈んでゐる僕が、
輝き出でる時もある。

さて、輝き出でるや、諸君は云ひます、
「あれでああなのかねえ、
不思議みたいなもんだねえ」。

が、冗談ぢやない、
僕は僕が輝けるやうに生きてゐた。
 (一九三六・一〇・一)



青空文庫より引用