月は中天に

月は中天に
中野鈴子

土も凍る夜
友と二人
炭のない部屋にねむろうとしている
われらの「戦旗」がいま
二三の女の手にカギが渡され
必死のこぶしを
彼らの靴先が踏みくだこうとしている

友の夫 わたしの兄たち
いく百の前衛は牢や
いく千の兵士は満洲の戦場に狩り出され
友と二人
破れた雨戸の部屋にねむろうとしている

ガラスの窓に月が冴えて光る
月は中天に輝々として



青空文庫より引用