寡婦の除夜 月つき清きよし、星ほし白しろし、霜しも深ふかし、夜よる寒さむし、家いへ貧まづし、友とも尠すくなし、歳とし尽つきて人ひと帰かへらず、思おもひは走はしる西にしの海うみ涙なんだは凍こほる威海湾ゐかいわん南みなみの島しまに船出ふなでせし恋こひしき人の迹あとゆかし人には春はるの晴衣はれごろも軍功いくさいさほの祝酒いはひざけ我には仮かりの侘住わびずまひ独り手向たむくる閼伽あかの水みづ我われ空むなしふして人ひとは充みつ我衰おとろへて国くに栄さかふ貞ていを冥土めいどの夫つまに尽つくし節せつを戦後せんごの国くにに全まつたふす月つき清きよし、星ほし白しろし、霜しも深ふかし、夜よる寒さむし、家いへ貧まづし、友とも尠すくなし、歳とし尽つきて人ひと帰かへらず。青空文庫より引用