青空の梯子

青空の梯子
原民喜

 二階の窓に桜の葉が繁って、彼は中学を休んだ。曇った朝の空が葉のむかふにあった。雀が囀った。

 怠けものはさきになって困るぞ、と誰も云はないが云ふ。それがちりちりと迫った。
 彼は左官になって一生懸命高い梯子を登り降りする姿を夢みた。懐中時計の字のない部分は白かった。
 正午前である。空がすっかり晴れて来た。



青空文庫より引用