業者と美術家の覚醒を促す


 最近豪華版とか、限定版とか称する書籍を見る。少い部数で、一々本の番号を付し、非常に立派な装幀で、一見まことに豪華なものである。限られた少数の富裕な見手を目当てにしたものだろう。私達から見れば此上なく意味のないもので、読んで見て魂消る場合が屡々ある。内容と形式とが全然一致しないのである。何々文庫と称する十銭二十銭のものにどれだけ劣るか分らない。
 見た眼がいいものを――という気持の出版当事者も悪いが、又装幀を引受けた美術家なるものもあまりに盲目的である。芸術的良心を痲痺させてしまって出版業者に動員されて、てんから恥ない所がありはすまいか、出版当事者美術家ともに大いに良心を覚醒させる要があろう。
 次にさしずめ世界文化年表とでも称する年表が欲しい。広い文化の分野でせまい分科的にではあるかも知れないが綜合的な世界の文化を縦に貫ぬいた年表が欲しいのである。困難な仕事であろうが、文化貢献の為乗り出して下さる出版社がないものだろうか。
 〔一九三六年六月〕



青空文庫より引用