〔われ聴衆に会釈して〕
〔われ聴衆に会釈して〕
宮沢賢治
われ聴衆に会釈して
歌ひ出でんとしたるとき
突如下手の幕かげに
まづおぼろなる銅鑼鳴りて
やがてジロフォンみだれうつ
わが立ち惑ふそのひまに
琴はいよよに烈しくて
そはかの支那の小娘と
われとが潔き愛恋を
あらぬかたちに歪めなし
描きあざけり罵りて
衆意を迎ふるさまなりき
そを一すぢのたはむれと
なすべき才もあらざれば
たゞ胸あつく頬つりて
呆けたるごとくわが立てば
もろびとどつと声あげて
いよよにわれをあざみけり
このこともとしわが敵の
かの腹円きセロ弾きが
わざとはわれも知りしかど
青空文庫より引用
宮沢賢治
われ聴衆に会釈して
歌ひ出でんとしたるとき
突如下手の幕かげに
まづおぼろなる銅鑼鳴りて
やがてジロフォンみだれうつ
わが立ち惑ふそのひまに
琴はいよよに烈しくて
そはかの支那の小娘と
われとが潔き愛恋を
あらぬかたちに歪めなし
描きあざけり罵りて
衆意を迎ふるさまなりき
そを一すぢのたはむれと
なすべき才もあらざれば
たゞ胸あつく頬つりて
呆けたるごとくわが立てば
もろびとどつと声あげて
いよよにわれをあざみけり
このこともとしわが敵の
かの腹円きセロ弾きが
わざとはわれも知りしかど
青空文庫より引用