焦燥

焦燥
富永太郎

母親は煎薬を煎じに行つた
枯れた葦の葉が短かいので。
ひかりが掛布の皺を打つたとき
寝台はあまりに金の唸きであつた
寝台は
いきれたつ犬の巣箱の罪をのり超え
大空の堅い眼の下に
幅びろの青葉をあつめ
棄てられた藁の熱を吸ひ
たちのぼる巷の中に
青ぐろい額の上に
むらがる蠅のうなりの中に
寝台はのど渇き
求めたのに求めたのに
枯れた葦の葉が短かいので
母親は煎薬を煎じに行つた。



青空文庫より引用