しゃしんやさん
あつい 日でした。正ちゃんは あおぎりの 木の 下で、すべりだいに のって あそんで いました。
そこへ、かみの ながい しゃしんやさんが はいって きて、
「ひとつ うつさせて くださいませんか。」
と たのみました。この しゃしんやさんは きかいを さげて、ごようを ききに あるくのです。
「子どもを とって もらいましょうか。」
と、おかあさんは おっしゃいました。
「かしこまりました。」
しゃしんやさんは、正ちゃんを すべりだいの 上へ かけさせ、おねえさんに ランドセルを しょわせて、下へ たたせました。
おねえさんは 小学一年生です。
「ぼっちゃん、お口を ふさいで。」
と、しゃしんやさんが いいますと、正ちゃんは、ああんと 口を あけました。
「ぼっちゃん、いい 子ですから、わらって くださいね。」
と、しゃしんやさんが いいますと、正ちゃんは、したを ぺろりと だしました。
これを みて いた おともだちは、正ちゃんの わんぱくに あきれました。
「正ちゃん ごらんなさい、おねえちゃんは おぎょうぎが いいこと。」
と、おかあさんが おっしゃいました。
「いいえ、ぼっちゃんも おぎょうぎが よろしいですよ。さあ、うつしますから。」
と、しゃしんやさんが うつそうと しました。
すると、正ちゃんは するすると すべりだいを すべりました。しゃしんやさんは こまって しまいました。
「この つぎに しましょうか。」
と、おかあさんは おっしゃいました。
かんがえて いた しゃしんやさんは、すっかり うつす よういを してから、
「さあ、おじょうさんも ぼっちゃんも、ようく おかあさんの おかおを ごらんなさい。」
と いいました。
ふたりは、やさしい おかあさんの おかおを みました。かたときも わすれない おかあさんだからです。
その とたん、パチンと 音が して、
「よく とれました。」
と、しゃしんやさんは あいさつを いたしました。
青空文庫より引用