煙と兄弟


 うすぐもりのしたそらを、つめたいかぜいていました。少年しょうねんは、おかあさんの、針仕事はりしごとをなさる、まどのところで、ぼんやり、そとほうをながめていました。もはや、がうすくいろづいて、あきもふけてきました。
「さっきから、そこで、なにをているの。」と、おかあさんが、少年しょうねんのようすにがついて、かれました。
「ぼく、けむりていたの。」
 おかあさんは、ちょっとめて、そのほうると、となりのいえ煙突えんとつから青白あおじろけむりのぼっていました。
「お風呂ふろけむりでしょう。」
 それは、少年しょうねんにわかっていました。かれは、それをらなかったのでありません。
「そうじゃないの。さきけむりが、あとからくるけむりをまっていて、いっしょにそらがろうとすると、いじわるいかぜいて、みんな、どこへかさらっていくのだよ。だって、おなから兄弟きょうだいだろう。かわいそうじゃないか。」と、少年しょうねんは、いいました。
 おかあさんは、しばらく、けむりていました。人間にんげんにたとえれば、をとりって、おぼつかなく、とおみちをいくようです。
「そうかんがえるのが、ただしいのですよ。どこの兄弟きょうだいも、やさしいおかあさんのおなかからまれて、おなじちちをのんで、わけへだてなくそだてられたのです。それをおおきくなってから、すこしの損得そんとくで、兄弟きょうだいげんかをしたり、たがいにゆききしないものがあれば、またなかには、大恩だいおんのある、母親ははおやをきらって、よせつけないものがあるといいますから、なかは、おそろしいところですね。」と、なにかふかかんじて、こういった、おかあさんのには、ひかるものがありました。このとき、
「ぼくは、そんな人間にんげんに、ならないよ。」と、少年しょうねんはおかあさんのひざに、とびつきました。



青空文庫より引用