角田喜久雄「肉」 角田喜久雄の「肉」は高山で霧にとじこめられて飢餓のため、人間しかも友人の肉を食う話。しかも食ったあとですぐ霧がはれて近くに猟師小屋が見つかるという運命の悪戯なのだ。ただそれだけだけれども、それだけで立派なコントだ。はじめの方の描写はもっと感覚的にいかぬものか。読者に飢餓の実感が伝わってこないのは描写の概念的のためだ。 (『東京朝日新聞』一九二九年一〇月四日)青空文庫より引用