芥川龍之介氏を弔ふ


 玲瓏れいろう明透めいてつ、そのぶん、そのしつ名玉山海めいぎよくさんかいらせるきみよ。溽暑蒸濁じよくしよじようだくなつそむきて、冷々れい/\ぜんとしてひとすゞしくきたまひぬ。倏忽たちまちにして巨星きよせいてんり。ひかり翰林かんりんきて永久とこしなへえず。しかりとはいへども、生前せいぜんをとりてしたしかりしときだに、そのかたちるにかず、そのこゑくをたらずとせし、われら、きみなきいま奈何いかんせむ。おもひ秋深あきふかく、つゆなみだごとし。つきて、面影おもかげゆべくは、たれかまた哀別離苦あいべつりくふものぞ。たかれいよ、須臾しばらくあひだかへれ、に。きみにあこがるゝもの、あいらしくかしこ遺兒ゐじたちと、温優貞淑をんいうていしゆくなる令夫人れいふじんとのみにあらざるなり。
 ことばつたなきをぢつゝ、つゝしん微衷びちうをのぶ。
 昭和二年八月



青空文庫より引用