女の出る蚊帳


 明治二年七月八日発行の明治新聞と云うのに、浜田藩の淀藤十郎と云うのが、古著屋ふるぎやからであろう、蚊帳かやを買って来て、それを釣って寝たところで、その夜の半夜よなか頃、枕頭へ女の姿があらわれた。それは白地に覇王樹しゃぼてんのような型を置いた浴衣ゆかたを著て、手に団扇うちわを持っていた。淀は気のせいだろうと思ってそのままにしていたところで、その翌晩もまたその翌晩もやはり女の姿があらわれるので、友人にその事を話すと、友人が其の蚊帳を持って往って釣った。と、友人の家でも同じような女の姿があらわれるので、蚊帳を買った家へ返しに往った。するとそこの主翁しゅじんが、
「どうも不思議ですよ、どこへ売っても、五日とたたないで返して来るのですよ」
 と云った。



青空文庫より引用