隧道内の怪火
兵庫県と岡山県の境になった上郡と三石間の隧道の開鑿工事は、多くの犠牲者を出してようやく竣工しただけに、ここを通る汽車は、その車輪の音までが、
「骨がたりない、トコトコトン」
と聞えると云って、車掌たちから恐れられていた。
それは十数年前の夏の夜のことであった。新らしく乗りこんだ一人の車掌が、熱くてしかたがないので、展望車のデッキに出て涼んでいると、何かしら冷たいものが背筋を這うたような気がした。と、その時、すぐ眼の前の線路の上で、とろとろと青い火が燃えあがって、それがふわりと浮きあがるなり、非常な勢いで列車目がけて飛んで来た。壮い車掌は慄えあがって二等寝台車の中へ駈けこんだが、それと同時に列車がぐらぐらと大きく揺れた。
青空文庫より引用