公孫樹
秋風死ぬる夕べの
入日の映のひと時、
ものみな息をひそめて、
さびしさ深く流るる。
心のうるみ切なき
ひと時、あはれ、仰ぐは
黄金の秋の雲をし
まとへる丘の公孫樹。
光栄の色よ、など、さは
深くも黙し立てるや。
さながら、遠き昔の
聖の墓とばかりに。
ま白き鴿のひと群、
天の羽々矢と降りきて、
黄金の雲にいりぬる。――
あはれ何にかたぐへむ。
樹の下馬を曳く子は
たはれに小さき足もて
幹をし踏みぬ。――あゝこれ
はた、また、何ににるらむ。
ましろき鴿のひと群
羽ばたき飛びぬ。黄金の
雲の葉、あはれ、法恵の
雨とし散りぞこぼるる。
今、日ぞ落つれ、夜ぞ来れ。――
真夜中時雨また来め。――
公孫樹よ、明日の裸身、
我、はた、何に儔へむ。
十一月十七日夜
青空文庫より引用