唱歌


 校友歌 

 
澁民尋常小學校生徒のために。
丙午七月一日作歌。
 

 一 

文の林の淺緑
樹影しづけきこの庭に
桂の庵の露むすび
惠みの星を迎ぎ見て
春また春といそしめば
心の枝も若芽すも。

 二 

芽ぐめる枝に水そそぎ
また培ふや朝夕に
父母のなさけを身にしめて
螢雪の苦をつみゆかば
智慧の木の實の味甘き
常世の苑も遠からじ。

 三 

導びく人の温かき
み手にひかれて睦み合ふ
我が三百の兄弟よ
木枯ふけど雪ふれど
きえぬ學びの燈の
光を永久に守らまし。

 四 

雪をいただく岩手山
名さへ優しき姫神の
山の間を流れゆく
千古の水の北上に
心を洗ひ筆洗ふ
この樂しみを誰か知る。

 五 

山は秀でて水清く
秀麗の氣をあつめたる
このみちのくの澁民の
母校の友よいざさらば
文の林の奧深く
理想の旗を推し立てむ。
 

 別れ 

 
澁民小學校卒業式に歌へる。
譜「荒城の月」に同じ。
 

 一 

心は高し岩手山
思ひは長し北上や
こゝ澁民の學舍に
むつびし年の重りて

 二 

梅こそ咲かね風かほる
彌生二十日の春の晝
若き心の歌ごゑに
わかれのむしろ興たけぬ

 三 

あゝわが友よいざさらば
希望の海に帆をあげよ
思ひはつきぬ今日の日の
つどひを永久の思ひ出に
 (明治四十年三月作)



青空文庫より引用