沙羅の花 沙羅木さらのきは植物園にもあるべし。わが見しは或人の庭なりけり。玉の如き花のにほへるもとには太湖石たいこせきと呼べる石もありしを、今はた如何いかになりはてけむ、わが知れる人さへ風のたよりにただありとのみ聞えつつ。 また立ちかへる水無月みなづきの歎きをたれにかたるべき。沙羅さらのみづ枝えに花さけば、かなしき人の目ぞ見ゆる。 (大正十四年五月)青空文庫より引用