ぎたる彈くひと

ぎたる彈くひと
萩原朔太郎

ぎたる彈く、
ぎたる彈く、
ひとりしおもへば、
たそがれは音なくあゆみ、
石造の都會、
またその上を走る汽車、電車のたぐひ、
それら音なくして過ぎゆくごとし、
わが愛のごときも永遠の歩行をやめず、
ゆくもかへるも、
やさしくなみだにうるみ、
ひとびとの瞳は街路にとぢらる。
ああ いのちの孤獨、
われより出でて徘徊し、
歩道に種を蒔きてゆく、
種を蒔くひと、
みづを撒くひと、
光るしやつぽのひと、そのこども、
しぬびあるきのたそがれに、
眼もおよばぬ東京の、
いはんかたなきはるけさおぼえ、
ぎたる彈く、
ぎたる彈く。



青空文庫より引用