君が家


ああ戀人の家なれば
幾度そこを行ききずり
空しくかへるたそがれの
雲つれなきを恨みんや

水は流れて南する
ゆかしき庭にそそげども
たが放ちたる花中の
艶なる戀もしらでやは

垣間み見ゆるほほづきの
赤きを人の脣に
情なくふくむ日もあらば
悲しき子等はいかにせん

例へば森にからすなき
朝ざむ告ぐる冬の日も
さびしき興にことよせて
行く子ありとは知るやしらずや

ああ空しくて往來いききずり
狂者きやうさに似たるふりは知るも
からたちの垣深うして
君がうれひのとどきあへず。



青空文庫より引用