巡禮紀行


きびしく凍りて、
指ちぎれむとすれども、
杖は絶頂いただきにするどく光る、
七重の氷雪、
山路ふかみ、
わがともがらは一列に、
いためる心山峽はざまたどる。

しだいに四方よもを眺むれば、
遠き地平を超え、
黒き眞冬を超えて叫びしんりつす、
ああ聖地靈感の狼ら、
かなしみ切齒はがみなし、
にくしんを研ぎてもとむるものを、
息絶えんとしてかつはしる。

疾走はしれるものを見るなかれ、
いまともがらは一列に、
手に手に銀の鈴ふりて、
雪ふる空に鳥を薫じ、
涙ぐましき夕餐ゆふげとはなる。
 ―一九一四、一〇―



青空文庫より引用