幼き妹に


いもうとよ、
そのいぢらしき顏をあげ。
みよ兄は手に水桃みづももをささげもち、
いつさんにきみがかたへにしたひよる、
この東京の日くれどき、
兄の戀魚は青らみてゆきて、
日毎にいたみしたたり、
いまいきもたえだえ、
あい子よ、
ふたり哀しき日のしたに、
ひとしれず草木さうもくの種を研ぐとても、
さびしきはげに我等の素脚ならずや。
ああいとけなきおんみよ。
 ―一九一四、五、三―



青空文庫より引用