春の來る頃


なじかは春の歩み遲く
わが故郷ふるさとは消え殘る雪の光れる
わが眼になじむ遠き山山
その山脈やまなみもれんめんと
煙の見えざる淺間は哀し
今朝より家を逃れいで
木ぬれに石をかくして遊べる
をみな來りて問ふにあらずば
なんとて家路を教ふべき

はやも晝餉になりぬれど
ひとり木立にかくれつつ
母もにくしや
父もにくしやとこそ唄ふなる。
 (滯郷哀語篇ヨリ)



青空文庫より引用