浮名
浮名をいとはば舟にのれ、
舟はながれゆく、
いま櫓櫂の音を絶え、
風も雨も晴れしあけぼのに、
よしあしぐさのみだるる渚をすぎ、
舟はすいすいと流れゆくなり。
ああ舟にのりて行かば、
くるほしきなみの亂れもここちよく、
ちのみごの夜びえする、
あやしきこゑもきかであるべきに、
ふるとせひとにかくれて、
わがはぐくみしいろぐさのはや涸れぬとぞ、
けふきけば薄葉に涙しをるる、
よしゑやし、
悲しきものはあだがたき、君ならなくに、
はやも我が世をのがれいでばや。
青空文庫より引用
前回の続きから再開しました。