秋の日


眼をなや山雀やまがら
愁を分けて、秋の日
乳母うばの里、梨寺に
稚日ちじつおもひをなやみぬ

花びら
地に落つる音
芥子けしちるか
秋なるに

はた山なるに
いと淋しや
よひ、また籠をいだいて
うれひぬ、鳥の病に

ああ疑ふ
死せざらんや、いかで
さて風ふかば、いかで
聞かざらんや
豆の葉の鳴る日を

野面のもせ、雪に埋れし
木枯あらばいかに
淋しとて
泣くこころ、鳥にかあらまし
人なればとて、いはんや

かばかりいたむ心ぞ、君
口籠くごもる男をくせとみしも
(昨日か)
思ふに涙はかくこそ流れん
わりなや

秋風あきかぜはだへに寒しとてや山雀
いといとせちなるふりくも
なにかは
我は山住み
の日笑顏ゑがほ乳母うばを見て
知んぬ平和の愛着

目を病むも
老いたるも
人たるも鳥たるも
(さはいへ)
さびしからまし
日は照るに
とこしなへ

籠を抱いて
夜すがら
鳥と愁へぬ。
あかつき
めにけり
菊の露



青空文庫より引用