蛇苺


實は成りぬ
草葉かげ
ささやかに
赤うして
名も知らぬ
實は成りぬ

大空みれば
日は遠しや
輝輝たる夏のひるさがり
野路にかくれて
唱ふもの

魔よ
名を蛇と呼ばれて
拗者すねもの
のろうた
節なれぬ

野に生ひて
光なき身の
運命さだめ悲しや
さかしま
感じては

のろはれし
夏の日を
妖艷の
蠱物と
接吻くちづけ交す蛇苺



青空文庫より引用