十和田湖の裸像に與ふ


 
銅とスズとの合金が立つてゐる。
どんな造型が行はれようと
無機質の圖形にはちがひがない。
はらわたや粘液や脂や汗や生きものの
きたならしさはここにない。
すさまじい十和田湖の圓錐空間にはまりこんで
天然四元の平手打をまともにうける
銅とスズとの合金で出來た
女の裸像が二人
影と形のやうに立つてゐる。
いさぎよい非情の金屬が青くさびて
地上に割れてくづれるまで
この原始林の壓力に堪へて
立つなら幾千年でも默つて立つてろ。
 



青空文庫より引用