夏と私


真ツ白い嘆かひのうちに、
海を見たり。かもめを見たり。

高きより、風のただ中に、
思ひ出の破片の翻転するをみたり。

夏としなれば、高山に、
真ツ白い嘆きを見たり。

燃ゆる山路を、登りゆきて
頂上の風に吹かれたり。

風に吹かれつ、わが来し方に
茫然ばうぜんとしぬ、……涙しぬ。

はてしなき、そが心
母にも、……もとより友にも明さざりき。

しかすがにのぞみのみにて、
こまねきて、そがのぞみに圧倒さるる。

わが身を見たり、夏としなれば、
そのやうなわが身を見たり。
 (一九三〇・六・一四)



青空文庫より引用