暗い天候


 二 

こんなにフケが落ちる、
   秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる……
   お道化どけてゐるな――
しかしあんまりかなしすぎる。

犬が吠える、虫が鳴く、
   畜生! おまへ達には社交界も世間も、
ないだろ。着物一枚持たずに、
   俺も生きてみたいんだよ。

吠えるなら吠えろ、
   鳴くなら鳴け、
目に涙をたたへて俺は仰臥さ。
   さて、俺は何時死ぬるのか、明日か明後日か……
――やい、豚、寝ろ!

こんなにフケが落ちる、
   秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる。
   なんだかお道化てゐるな
しかしあんまり哀しすぎる。

 三 

このけがれた涙に汚れて、
今日も一日、過ごしたんだ。

暗い冬の日がはりや壁をめつけるやうに、
私も搾められてゐるんだ。

赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、
昆布や烏賊するめ洟紙はながみや首巻や、

みんなみんな、街頭沿ひの電線の方へ
荷馬車の音も耳に入らずに、舞ひ※ 《あが》り舞ひ※ り

ああ! はたして昨日が晴日おてんきであつたかどうかも、
私は思ひ出せないのであつた。



青空文庫より引用