「鷹」 石川淳さんのように正しく古典を解するとともに正しく近代に身を置く人は稀にしかない。彼の文学の浪曼ろうまん性は虚妄の秩序をしりぞけること、いきおい悪の華を開花せしめる如くに展開するが、その思考の基は古代から現代に至るまで一貫して揺ぎのない正論の選択と発見の上に成り立っている。一朝一夕に思いついたところは微塵みじんといえどもないのである。彼の文学は怱卒そうそつな現代に於て味読に価する最も意味の深遠な作品と言えよう。青空文庫より引用