水の上
中央公会堂の赤煉瓦
緑青色の高裁のドーム
中洲の葉柳をかすめて
とび去る水中翼船の渦巻から
ムツとするような水苔の匂い。
ついさつきまで
ランチ・タイムを愉しんでいた
BGやホワイト・カラー達も
みんな今は引き揚げていつてしまい
あとには
濡れ手で銭勘定の
貸ボート屋ののどかな浮世哲学。
上げ潮にむつかしい家裏をみせた川魚料理の
昼もほのぐらい煤天井に
うららかな水かげろうの文
軒場に張り出した
巣箱のようなエア・コンの上に
かえりそびれた
新聞社の伝書鳩が
ちよこなんと一つ
そろそろ夕刊の
降版の時間だというのに。
青空文庫より引用