厩
高原の空に風光り、
秋はやふかみて、
鑛脈のしづくのごとく、
ひねもす銀針の落つるをおぼえ、
ゆびにとげいたみ、
せちにひそかに、
いまわれの瞳の閉づるを欲す。
ここは利根川、
その氾濫のながめいちじるく、
青空に桑の葉光り、
さんらんとして遠き山里に愁をひたす、
あはれ、あはれ、われの故郷にあなれば、
この眺望のいたましさ。
眼もはるにみゆ。
村落の光る厩のうへに、
かがやく愛の手は伸びゆきて、
われの身は銀の一脈、
ひそかに息づき生命はや絶えなんとする。
―九月七日―
青空文庫より引用