古盃


小人若うて道にんじ
走りて隱者を得しが如く
今われ山路の歸さ來つつ
木蔭にかたよき汝をえたり。
表面おもては蛟龍雲をいて
神有じんうの祕密をそめて見るや
裏面うらには伶人ぬかをたれて
物思ものもひ煩ふなよび姿
才華悧悧たるまなざしには
工匠たくみうらみもこもりけんよ。
こは君逸品いつぴん古色ありと
抱いて歸れば有情なりや
味よきしづくの淺紫せんしなるに
け高き千古の春を知りぬ。



青空文庫より引用