コキューの憶ひ出


その夜私は、コンテで以て自我像を画いた
風の吹いてるお会式ゑしきの夜でした

打叩く太鼓の音は風に消え、
私の机の上ばかり、あかあかとあかり、

女はどこで何を話してゐたかは知る由もない
私の肖顔にがほは、コンテに汚れ、

その上に雨でもパラつかうものなら、
まこと傑作な自我像は浮び、

軌 り り」は底本では「きしり」]ゆく、終夜電車は、
悲しみの余裕を奪ひ、

あかあかと、あかあかと私の画用紙の上は、
けれども悲しい私の肖顔にがほが浮んでた。



青空文庫より引用