星とピエロ


何、あれはな、空に吊した銀紙ぢやよ
かう、ボール紙をつて、それに銀紙を張る、
それを綱か何かで、空に吊し上げる、
するとそれが夜になつて、空の奥であのやうに
光るのぢや。分つたか、さもなけれあ空にあんなものはないのぢや

それあ学者共は、地球のほかにも地球があるなぞといふが
そんなことはみんなウソぢや、銀河系なぞといふのもあれは
をなご共の帯に銀紙をりつけたものに過ぎないのぢや
ぞろぞろと、だらしもない、遠くの方ぢやからええやうなものの
ぢやによつて、わしなんざあ、遠くの方はてんきりみんぢやて

見ればこそ腹も立つ、腹が立てば怒りたうなるわい
それを怒らいでジツと我慢してをれば、神秘だのとも云ひたくなる
もともと神秘だのと云ふ連中やつは、例の八ツ当りも出来ぬ弱虫ぢやで
誰怒るすぢもないとて、あんまり始末がよすぎる程のやからどもが
あんなこと発明をしよつたのぢやわい、分つたらう

分らなければまだ教へてくれる、空の星が銀紙ぢやないというても
銀でないものが銀のやうに光りはせぬ、青光りがするつてか
それや青光りもするぢやらう、銀紙ぢやからなう
向きによつては青光りすることもあるぢや、いや遠いつてか
遠いには正に遠いいが、それや吊し上げる時綱を途方もなう長うしたからのことぢや
 (一九三四・一二・一六)



青空文庫より引用