大和ぶり


 大和路 

大和なればあららぎは見ゆいらか見ゆ菜たねがらやく畑のをち

道にそふ切づまの家柿若葉生駒遠嶺は淡々《あは/\》と霞み


 春日野 

いゆきめぐるあしびがもとの道明るし春日野にある此のゆふべなり

我が行くは憶良おくらの家にあらじかとふと思ひけり春日かすがの月夜


 奈良ホテル 

朝窓のそとに来遊ぶ鹿を見る奈良にやどりし喜びの一つ

大木あふちむらさき淡きいろしづかに朝の庭苑の一角いつかくを占む


 秋雨の日 

靄ごもる布留ふるの川添とめゆかば昔少女にけだし逢はむかも

秋雨に飛鳥を行けば遠つ世のおもひするかな萩の花ちる


 薬師寺 

巍々たる宝刹のもとおほけなくわが歌碑ここに建たむと思へや

瑞々し菩提樹の蔭にわが歌の石ぶみは建てりよき処得て



青空文庫より引用