庭園の雨


松の葉の青きに
しとしとと雨はふる。
凄まじき暴風雨あらしの後に
針のごと雨はふる。

色黄なる毛虫は
土に沁みつき、
月見草は
萎れて白し。

桐、樅、無花果、
人工の盆栽の梅、
犯されし小娘か、みな、
泣き伏して声もなし。

しとしとと雨はふる。
浜の砂庭に吹き散り、
陸橋からばしの下には
傷つきし犬瞳を凝らす。

あまりにも静かなり、ただ、
腹切りし苦しさに
肩衣かたぎぬをはねのけし瀬尾せのを
その青き松の震慄わななき

かくて、わが終日ひねもす
針のごと雨はふる。
海見ゆる涼台すずみの破風に
光り、かつ、をぐらく。

雨はふる、しとしとと、
雨はやむ、またしばし、
夕されば血の如き虹
遂にまた海と空とに。



青空文庫より引用