影絵


半缺けの日本につぽんの月の下を、
一寸法師の夫婦が急ぐ。

二人ながらに 思ひつめたる前かゞみ、
さても毒々しい二つの鼻のシルヱツト。

なま白い河岸をまだらに染め抜いた、
柳並木の影を踏んで、
せかせかと――何に追はれる、
揃はぬがちのその足どりは?

手をひきあつた影の道化は
あれもうそこな遠見の橋の
黒い擬宝珠の下を通る。
冷飯草履の地を掃く音は
もはや聞えぬ。

半缺の月は、今宵、柳との
逢引の時刻ときを忘れてゐる。



青空文庫より引用