七里ヶ浜の哀歌
一 真白き富士の根 緑の江の島
仰ぎ見るも 今は涙
帰らぬ十二の 雄々《おお》しきみたまに
捧げまつる 胸と心
二 ボートは沈みぬ 千尋の海原
風も浪も 小さき腕に
力もつきはて 呼ぶ名は父母
恨は深し 七里が浜辺
三 み雪は咽びぬ 風さえ騒ぎて
月も星も 影をひそめ
みたまよ何処に 迷いておわすか
帰れ早く 母の胸に
四 みそらにかがやく 朝日のみ光り
暗にしずむ 親の心
黄金も宝も 何しに集めん
神よ早く 我も召せよ
五 雲間に昇りし 昨日の月影
今は見えぬ 人の姿
悲しさ余りて 寝られぬ枕に
響く波の おとも高し
六 帰らぬ浪路に 友よぶ千鳥に
我もこいし 失せし人よ
尽きせぬ恨に 泣くねは共々《ともども》
今日もあすも 斯くてとわに
――明43 ・2発表
青空文庫より引用