鎌倉


七里しちりが浜のいそ伝い
  稲村いなむらが崎 名将の
    剣投ぜし古戦場

極楽寺ごくらくじ坂越え行けば
  長谷はせ観音の堂近く
    露坐の大仏おわします

由比ゆいの浜べを右に見て
  雪の下村過ぎ行けば
    八幡宮の御社おんやしろ

のぼるや石のきざはしの
  左に高き大銀杏
    問わばや 遠き世々の跡

若宮堂わかみやどうの舞の袖
  しずのおだまきくりかえし
    かえせし人をしのびつつ

鎌倉宮かまくらぐうにもうでては
  尽きせぬ親王みこのみうらみに
    悲憤の涙わきぬべし

歴史は長き七百年しちひゃくねん
  興亡すべてゆめに似て
    英雄墓はこけ蒸しぬ

建長けんちょう円覚えんがく古寺の
  山門高き松風に
    昔の音やこもるらん



青空文庫より引用