ピアノ


ふるへては何処いづこへかむせび入り
跡かたもないメロデイよ、
淡蒼うすあをい影をうごかす
おまへの指は絶間なくむせび入り、
しなやかな幻にとりすがる。

白い指の王国は
ほしいままな圧制を
しひたげの歌をき鳴らす、
薄明りの上に輝いて
裂けて死ぬ光りのなげき。

けぶりのやうな明るみへ、
秘密を探る指の白よ、  」は底本では「白よ、 」]

四阿あづまやのにほひと色彩いろめられて、
私の心は幾度も幾度も生き死ぬ。



青空文庫より引用