行倒の商売


 これ当今たうこんでは出来できませぬが、昔時むかし行倒ゆきだふれ商売しやうばいにしてた者があります。無闇むやみうちまへ打倒ぶつたふれるから「まアおまへ何所どこかへつてれ。乞「うもわたくしはらつて歩かれませぬ、其上そのうへ塩梅あんばいわるうございまして。とふから仕方しかたなしに握飯むすび二個ふたつぜにの百か二百ると当人たうにんは喜んで其場そのば立退たちのくといふ。これ商売しやうばいになつてました。或時あるとき此奴こいつが自分の日記帳をおとした。それひろつてんで見ると、
 
ばんちやうにて倒候たふれさふらふせつは、六しやくぼうにて追払おひはらはれ、握飯むすび二個ふたつ番茶ばんちやぱい
翌日よくじつ牛込改代町うしごめかいたいちやうたふさふらふせつは、ぜに貫文くわんもん海苔鮨のりずしぼんそれより午過ひるすぎ下谷上野町したやうへのまちたふさふらふせつたゞきう
 



青空文庫より引用