手
富永太郎

おまへの手はもの悲しい
酒びたしのテーブルの上に。
おまへの手は息づいてゐる、
たつた一つ、私の前に。
おまへの手を風がわたる、
枝の青蟲を吹くやうに。

私は疲れた、靴は破れた。



青空文庫より引用