俳句
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五月幟立つ家家の向うは海
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暮鳥忌
磯濱の煙わびしき年のくれ
笹鳴
笹鳴の日かげをくぐる庭の隅
笹鳴や日脚のおそき縁の先
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天城ごえ伊豆に入る日や遲櫻
青梅に言葉すくなき別れ哉
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青梅に言葉すくなき別れかな
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冬日くれぬ思ひおこせや牡蠣の塚
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我が心また新しく泣かんとす
冬日暮れぬ思ひ起せや岩に牡蠣
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ブラジルに珈琲植ゑむ秋の風
枯菊や日日にさめゆくいきどほり
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プラタヌの葉は散りはてぬ靴磨き
冬さるる畠に乾ける靴の泥
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虹立つや人馬にぎはふ空の上
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人間に火星近づく暑さかな
秋さびし皿みなわれて納屋の隅
枯菊や日日に醒めゆく憤り
虹たつや人馬にぎはふ空の上
『遺稿』より
我が齡すでに知命を過ぎぬ
枯菊や日日にさめゆく憤り
若き日の希望すべて皆空しくなりぬ
秋さびし皿みな割れて納屋の隅
嗚呼すでに衰へ、わが心また新しく泣かむとす
冬日くれぬ思ひ起せや岩に牡蠣
故郷に歸れる日、利根の河原をひとり歩きて
磊落と河原を行けば草雲雀
わが幻想の都市は空にあり
虹立つや人馬賑ふ空の上
隱遁の情止みがたく、芭蕉を思ふこと切なり
藪蔭や蔦もからまぬ唐辛子
晩秋の日、湘南の或る侘しき海水浴場にて
コスモスや海少し見ゆる邸道
青空文庫より引用