ノーベル賞が誰に与えられるのか毎年話題になりますが、過去の受賞者について知る機会はあまりありませんよね。文学賞は特に今の社会への連続性を感じにくく、特集も組まれにくい。ということで今回はノーベル文学賞初代受賞者についてです。

シュリ・プリュドム、詩の変遷『予備知識』

シュリ・プリュドム(1839年 - 1907年)は、フランスの詩人であり、ノーベル文学賞の第一回受賞者です。彼の詩は、象徴主義への橋渡し的存在として評価されています。

彼の詩の特徴は何といっても、心情を重視しつつも哲学的な洞察もあることでしょう。彼の初期の作風はパルナス(高踏派)という厳格な形式のもとで詩を書こうとするものでしたが、次第に哲学的テーマについての内容が多くなりました。

彼がノーベル賞を受賞した理由は、『高尚な理想主義と芸術的完成度の形跡、心情と知性の両方の資質の珍しい組み合わせを与える、詩的な構成物に対して』です。形式張った詩は彼の基礎であり、独自の発展を遂げた後期の作品が一番脂が乗って美味であると言えるでしょう。

代表作 :『割れた花瓶

まさに割れた花瓶の画像
まさに割れた花瓶の画像。中に入っていた花は何かな?

割れた花瓶』は言わずと知れた彼の代表作。私が始めて読んだときには「見えない危うさがあることを知覚せよ」「たとえ言葉にしても本当の心が伝わるかはわからない」「美しくとも触れられないものがある」「傷つけ、傷つきたくなければ不用意に触れてくれるな」というような嘆き憂いのメッセージを感じました。

フランス語 原文

Le vase où meurt cette verveine.
D'un coup d'éventail fut fêlé;
Le coup dut effleurer à peine :
Aucun bruit ne l'a révélé.

Mais la légère meurtrissure,
Mordant le cristal chaque jour,
D'une marche invisible et sûre,
En a fait lentement le tour.

Son eau fraîche a fui goutte à goutte,
Le suc des fleurs s'et épuisé;
Personne encore ne s'en doute,
N'y touchez pas, il est brisé.

Souvent aussi la main qu'on aime,
Effleurant le coeur, le meurtrit;
Puis le coeur se fend de lui-même,
La fleur de son amour périt;

Toujours intact aux yeux du monde,
Il sent croître et pleurer tout bas.
Sa blessure fine et profonde;
Il est brisé, n'y touchez pas.

日本語翻訳 By ShelfHub

そこのバーベナが枯れつつある花瓶は
扇から一撃、ひびを入れられた
ほんのちょっとのことでした
物音一つ立たず、分かるはずもありません

しかし、その軽いひびは
日に日にガラスを蝕んで
人知れず、確実に、どんどんと
ゆっくりと周りに広がっていった

新しく入れた水も、一滴また一滴と漏れ出すのです
花々の瑞々しさは無くなってしまった
まだ誰も気づいていませんが
花瓶には触れてくれるな、壊れてしまうから

しばしば、我々は愛する人と触れ合い
心に触れ、傷つけてしまう
すると、心はひとりでにひび割れ
愛の花も枯れさせてしまうのです

世間からいつも無傷に見えても
心のひびは静かに大きくなり、啜り泣く
この微かな、けれど深い傷に
壊れてしまうから、触れてくれるな

どうでしたか?私は結構この詩好きです。ボーっとしてても読みやすい直接表現の多い詩だと思います。翻訳するにあたって、かなり意訳することになりました。おかげさまで綺麗で、日本語で意味が汲み取りやすいかな?という訳になったと思います。

実は多才なプリュドムさん

プリュドムの生まれは裕福な商人の家ということもあり、教育において不自由しない環境でした。彼はエンジニアとしての将来を考え、リセ・コンドルセへ進学しました。

(※リセとはフランスの中等教育機関で、日本の高校に相当します。名門!)

リセコンドルセの画像

しかし、目に病気を患い退学を余儀なくされてしまいました。

その後、機械工作系の会社で働くのですが、一気に転身。法学に興味を持ち、弁護士としてしばらく働くこととなります。いろいろな職業を体験していますね…。

1901年、ノーベル賞受賞へ

実は、プリュドムのノーベル賞受賞は世間から意外性をもって受け止められました。同時期に活躍したロシアの文豪としてトルストイがいたためです。トルストイに第一回受賞の名誉は与えられるだろうと思っていたのです。

選考結果に対して、一部作家たちからの批判の声がありました。これは受賞を意外に思っていたプリュドムさん本人からしてみても複雑だったことでしょう。

彼は受賞にあたって与えられた賞金を寄付または文学協会の創設資金に充てました。
ホントに素敵な生きざまですね。